ハイフィンガー奏法 1
- Junko Nagaya
- 4月23日
- 読了時間: 3分
これはすべて私自身の体験に基づく話です。
今回はハイフィンガー奏法の問題点について考察してみようと思います。
指でピアノを打鍵して演奏する奏法であるハイフィンガー、すなわち指の運動でもってピアノを演奏する奏法にはいろいろな問題点があります。
基本的に、指の運動のみでピアノの鍵盤を打鍵するため、硬い音色、変化の乏しい音色のみでの演奏になりやすいです。その為、特にロマン派以降の楽曲で、メロディーを歌おうとしても、この奏法では上手にメロディーを歌う事が出来ませんでした。
さらに指だけを動かす事に集中しがちなので、なんだか指先だけが空回りする感じもして、例えば楽曲を一定のテンポで演奏しようとしても、どんどん早くなっていったりして、一定のテンポを安定して保つことが難しいです。この奏法で演奏していた時は、身体の重心も、どちらかと言うと、前かがみになってしまっていた気がします。
さらに、指の先端 fingertipp を使ってピアノを弾く癖が付きやすいので、これも問題を引き起こしました。指の先端を使ってピアノを演奏すると、柔らかく豊かな音色が生み出せないのです。これは、フランス人のピアニストでいらっしゃる、メルレ先生にも何度も注意を受けましたが、指の先端を使うと、ピアノのハンマーも同時に鳴ってしまう為、「No Hammer Sound」と何度も注意されながら、メルレ先生のマスタークラスにて、Debussyの前奏曲集のレッスンを受講したことを今でもよく覚えています。
Eastman School of Musicで同じクラスだったカナダ人のピアニストの方で、フランス人のピアニストでいらっしゃるJean Paul Sevilla先生のお弟子さんだった方とも、奏法に関してお話した事がありましたが、Sevilla先生と勉強されていた時は、わりとフラットフィンガーのような奏法で演奏していたけれども、日本の大学に留学された時についた日本人の先生のもとで「指で演奏する奏法に変えた」とおっしゃっいたので、もしかすると、ハイフィンガー奏法は日本独自の奏法なのかもしれません。
私もJean Paul Seveilla先生のレッスンも受けた事があり、Bach、Debussy、Ravelなどをみていただきました。先生には、私はピアノの表面だけを弾いているという注意を受けましたが、音楽的なことを重点的にレッスンしていただいたので、先生はあまり演奏法に関して踏み込まれて指導されませんでした。
実は、このピアノの表面だけを弾いている…この癖も直すのが非常に大変なのです。これも振り返ってみると、やはりハイフィンガー奏法の弊害だったのではないかと思われます。指だけでピアノの鍵盤を弾くと、指って軽いので、結局、鍵盤の表面を少し打鍵しているだけで終わってしまうのです。さらに、そのような打鍵では、例えば、ラフマニノフを演奏する時に必要とされるような、豊かに鳴り響く音色をピアノから引き出すことは出来ないのです。
古い世代のピアニストの先生方は、基本的に鍵盤から指を離すことなく、鍵盤の中で演奏すされます。しかし、このピアノを演奏する際に必要とされる基本的な奏法でさえも、ハイフィンガー奏法から直すのは非常に大変でした。この問題点に関しては、後にKern先生に粘り強くご指導いただきました。
ピアノを演奏する時に鍵盤から指を離さないという点に関しては、フランスの奏法もオールドロシアンスクールの奏法も同じでした。私はこの点に関しては、留学して以来、お会いしたすべての先生方に厳しく指導を受けたので、今では、いろいろなピアニストの演奏を聴いている時に、ピアノの鍵盤から指をすこしでも離して演奏している人を見かけると、結構気になるようになりました。
とにかく、指を鍵盤から決して離さない、鍵盤の中で弾く…という基本中の基本さえ、私は最初からやり直さねばならず、留学して以降は、本当に様々な演奏法を直す為に、大変な思いをしながらピアノを練習していました。




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